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金曜日, 7月 19, 2024
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貴妃酔清酒—琥珀と水晶

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(映画シナリオ)

  映画脚本のあらすじ    原案 増田維忠

  物語の概要:
  天宝15年(西暦756年)農暦6月半ばに起こった「安史の乱」により、大唐帝国の都・長安が反乱軍に侵入された。楊貴妃は絞首されるも奇跡的に生き返り、日本からの遣唐使に救われたのち、悄然と日本へと渡る。
  山口県大津郡(現在の長門市)久津に居を構えた楊貴妃は、その後、不思議な機縁で清酒文化の発揚に関わることになる。大難を逃れた日本で、楊貴妃は再度動乱に巻き込まれるが、よく謀を用い、孝謙天皇を助け、大乱を鎮めることに貢献する。知られざるロマンと冒険に満ちた一幅の歴史絵巻である。

  主要人物:
    大唐側
      楊玉環       大唐帝王の愛妾、楊貴妃(当時37歳)
      唐玄宗       第七代唐朝君主、李隆基、玄宗皇帝
      高力士       大宦官、朝廷の重臣
      陳玄礼       六軍主帥(宮殿禁軍の首領)
      謝阿蛮       宮殿付きの舞姫、楊貴妃の侍女
      馬仙期       宮殿付きの楽師
      魚得水       献上酒護送官、先祖伝来の銘酒名人

    日本側
      藤原刷(よし)雄(お)      遣唐使団を率いた日本の重臣
      孝謙天皇      日本史上六人目の女帝
      藤原仲麻呂 天皇の輔弼にして逆臣
      藤原豊(とよ)成(なり)      反乱軍首脳のひとり

(一)

  西暦756年、夏が過ぎ秋に向う頃。朝日が水平線から昇る。唐の国は、江南水郷のあたり。延々と続く水田、緑の苗が風に吹かれて波打っている。大運河のまばゆい波を縫って舟が行き交っている。水平線と空が交わる彼方に歴史的都市楊州城が見えてくる。
  ここで、「貴妃酔酒」のクローズアップ。五色で彩られたレリーフ付きの酒甕が映る。
  カメラがゆっくりと引くと、銘酒産地・浙江紹興から来た献上酒輸送船が見えてくる。追い風に乗って波音を立てて前進している。広々とした甲板には、色とりどりの酒甕が積まれている。
  魚得水という名の献上酒護送官がまさに水を得た魚のように満足げに舳先に立ち、はるか前方を眺めている。
  突然、岸辺に一隊の騎馬兵が鞭の音を立てながら現れる。先頭の者が運河をゆく船に向かい、逃走犯を捉えるべく命を受けている、直ちに接岸せよと声を上げる。
  魚得水の護送船隊が接岸するや、官兵が思わずわあわあ叫びながら一気になだれ込み、怒って目をむいて「貴妃酔酒」花雕酒(紹興酒)の甕を見ると、棍棒を振り上げて片端から割り始める。魚得水らが必死に止めようとしても、兵士たちは相変わらず叩き割る。船員の一人が地団太を踏んで「わあ!大変だ大変だ!これは朝廷に献上する花雕銘酒なのに……」と大声で叫んだ。魚得水は更に悲痛な声で、「ああ!南無阿弥陀仏――憐れな「貴妃酔酒」……今を時めく楊貴妃のお酒なのですぞ!」と叫ぶ。すると驚いたことに兵士たちは、火に油を注がれたかのようにますます激高して「ふん!俺たちはその楊貴妃を叩きのめすのだ!」と喚くのだった。
  ガシャン!ガシャン!ガシャン……,酒甕が割れて、褐色の酒がドクドクと吹き出し、甲板からあふれ出て、河に流れこんだ。陽の光に照らされた酒はまぶしく輝いて、まるで琥珀のようだ。酒は河の水と混じり合うと、その色は無限に変化した……
  みるみる形を変える「琥珀」が水中にゆったりと自在に漂う様子を背景に、この作品のタイトル『琥珀と水晶』(配役表)が遠くから観客の眼前へと迫ってくる――

(二)

  揚州城郊外。一件の閑静な住居。楊貴妃が広間に姿勢を正して座り、満面に憔悴の色を浮かべている。傍らでは宮廷の舞姫謝阿蛮が湯を沸かしお茶を入れ、あれこれと世話をしている。もう一方では、宮廷楽師馬仙期が楽器を背負い、手にはサーベルを持って、周囲の警戒に当たっている。楊貴妃はしきりに咳をして非常に苦しそうである。咳き込む喉に手を当て、眉をひそめる楊貴妃の目にあの、一生忘れることのできない恐ろしい光景が浮かぶ。
  陝西(せんせい)馬嵬坡(ばかいは)の宿場――
  土煙を巻き上げ、馬のひづめの音を立て、安禄山反乱軍の追手が迫る。玄宗と楊貴妃の一行は馬嵬坡に逃げ込む。恐れおののいていたところ、禁軍の首領・陳玄礼が楊国忠の首級を掲げ持ち、玄宗に楊貴妃に死を賜るべきだと迫る。
  大宦官高力士が危機に臨んで勇敢にも練り絹に仕掛けを施して主君を殺すという災いを逃れた!
  ――練り絹を手にした楊貴妃は、やむなく宿場の仏堂で首を吊るのであった。
  濃霧がいつしか流れ去り、空には三日月がかかっている。騒乱は一応終息した。
  幸いにも、練り絹の仕掛けのおかげで、楊貴妃が息を吹き返す。忠実な付き人らは楊貴妃を庇って危険から脱出し、夜の逃避行の末、揚州に逃げ延びた。

(三)

  揚州城内。街道には商店が軒を連ね、賑わいを見せている。ちょうど日本から来た遣唐使の一行が、任務を終えて帰国の途上、水路陸路の港揚州を経由しているところであった。副使の藤原刷雄が、使節たちを連れて通りを歩いてきた。揃いの衣装に身を包み、整然と歩く姿は道行く人々の目を引いた。街道に集まった人たちは、次々と足を止め、物珍しそうに、首を伸ばして眺める。
  人混みの中一人の身分の高そうな年配者が、慌てふためいた様子で先を急いでいたが、突然目を輝かせて、藤原刷雄に近づき、拱手(きょうしゅ)の礼(れい)(中国の敬礼で、両手の指を胸の前で組み合わせてお辞儀をする)をして「使節様、ぶしつけながらお伺いします。この老いぼれに見覚えがおありでは?」と尋ねた。
  藤原は相手の長い袖で半分隠した顔を見て、大いに驚き、すぐに手を引いて隊列に引き込み、歩きながら言った。「あなた様は、あなた様は外務を司る楊(よう)昢(ほつ)大臣ではありませんか?……楊家の危難、どうしたらよろしいでしょうか?」二人は人混みを避け静かなところへ移って、小声で共に対策を協議する。
  ちょうどそのころ、謝阿蛮が、楊州城内で名医妙薬を探すため街に来ていて、金文字の看板を掲げた大きな薬屋「同春堂」に足を踏み入れた。阿蛮はきょろきょろとあたりを見回すと、薬屋の店主が一人の客と熱心に語り合っているのを見かけ、好奇心から歩み寄って聞き耳を立てた。そして、立て板に水のようによどみなく医学に通じた話をしているその客にすっかり引き付けられてしまった。その客こそ魚得水であった。実は魚得水も、役人に酒甕を割られたとき、怪我をしたため、薬を探しに来ていたのだ。
  魚得水と薬屋の店主のやり取りの専門的な一言一言から、彼が相当医術に通じていることが分かったので、阿蛮は何とかして魚得水の力を借りることはできないかと思案した。そこで、阿蛮は「家に病を患う老人がいる」という口実を作って話しかけ、医術の専門家として、「道義的な善行」を懇願した。魚得水は薬屋の店主が忙しそうなのを見ると、その申し入れを快諾し、すぐに阿蛮に従った。

(四)

  楊貴妃は郊外の隠れ家で不安な気持ちで阿蛮の帰りを今か今かと待っていた。そこへ、阿蛮がさっと入って来て、今回折よく医術に通じた人に出会ったことを伝えた。
  門を見張っていた馬仙期が魚得水を促して一緒に部屋に入ってきた。魚得水は長年各地を渡り歩いていたので、礼儀をわきまえており、楊貴妃にも丁寧に礼を尽くして挨拶した。楊貴妃は伏し目がちに身を傾けて、咳きこんでいる。魚得水はそれを見て、何かを察したかのように、落ち着き払って先祖伝来の秘方として携行していた「花雕金酒」で薬酒をこしらえ、先ず自ら口にして確認してから阿蛮に渡した。 
  楊貴妃は阿蛮の手から薬酒を受け取ると、ゆっくりと一口、飲んでみた。するとたちまち喉がすっきりし、また数口飲むと、体全体に生気が通った。なんと、不思議な事か!馬嵬坡に来て以来、こんなに良い気持ちになったことがない。楊貴妃は大喜びで、身に着けていた華やかな刺繍を施した匂い袋を取って、阿蛮に渡し、この不思議な薬を作った客に贈った。
  魚得水は匂い袋を受け取ると、望外の贈り物に喜び、思わず、自分が身に着けていた、それとそっくりな匂い袋を取り出した。謝阿蛮と馬仙期は傍らで見ていて、目と目を見合わせて驚き、喜んだ。細やかな気配りができて機転の利く阿蛮は、手を伸ばして魚得水が身に着けていた匂い袋を指さし、「あら! あなたのこの宝物はどうなさったの?」と尋ねた。
  「当時、私の父がお酒を献上した時、皇帝から褒美として賜った匂い袋です。家宝として大切にして参りましたが、今、ここで二つになるとは!」魚得水は匂い袋を捧げ持って、感極まる。そしてこの時、事態を悟って、すぐさま楊貴妃の前に跪き、叩頭の礼をし、先祖伝来の医術で皇帝のご恩に報いるため、今後はお傍に仕えることを誓った。
  楊貴妃はすっかり心を慰められ、匂い袋を見て、その持ち主である親しい人を思い出し、目の前にかの日の長安の美しい景色が浮かぶのだった。
  都の奥にある宮殿、華清池のほとり
  玄宗皇帝と楊貴妃が「花雕金酒」を酌み交わす
  楊貴妃がお酒に少し酔って踊る姿の艶やかさ
  玄宗皇帝はその舞に合わせて鼓を叩き興を添える
  楊貴妃は「霓裳羽衣曲」の調べで歌い、踊る
  その調べは天に舞い上がる――
  楊貴妃の心の声がこだまする
  歌い踊って太平の世を謳歌していたころは
  美酒に酔ってゆめごこち
  平和な世の山河は麗しかった
  今初めて人生の苦しみを知る

(五)

  揚州城内の「同春堂」という大きな薬屋。
  魚得水が謝阿蛮をともない、薬材をもとめに来ており、売り場の傍らに座って待っている。ちょうど楊昢も藤原刷雄とともに日本への旅路に備えるべく、薬を買いに来た。楊昢は店に入るやいなや阿蛮を見つけ、驚き、かつ喜ぶ。双方は互いに同じ思いであった。店の裏口から揃って外へ出ると、運河沿いの静かな場所で、ひそやかに言葉を交わす。
  阿蛮は喜びの口調で楊貴妃回復の奇跡を絵に描いたように如実に語る。
  藤原は時局に鑑み楊貴妃の日本亡命を勧める。
  魚得水は皇帝へのご恩返しのため、同行して仕えると誓う。
  楊昢も大いに賛同しすぐにでも皇帝に奏上すると言う。
  郊外の隠れ家。楊貴妃は次々と訪れる楊昢らと会い、悲喜こもごもの感に浸った。
  皆口々に楊貴妃に日本への渡航を勧めたが、楊貴妃は玄宗皇帝との別れが忍び難く、美しい眉をひそめてあれこれ迷い決心がつかない。
  この時、外がにわかに騒がしくなり、追手が迫っていることに気付く。
  藤原刷雄の機転で、一行は楊州にある遣唐使団の宿舎にいったん身を寄せ、機会を捉えて動くことにした。楊貴妃も頷いて従い、小人数に分かれてその場を離れることにした。謝阿蛮と馬仙期は急いで楊貴妃に年老いた農婦の変装をさせ、親子連れのように見せかけ、最後に隠れ家を出た。
  揚州城の内外は大騒ぎとなり、追手の兵士がそこここに現れた。馬に跨った将官の目は大変鋭く、右往左往して逃げ惑う民衆の中から楊昢を見つけ出し、部下の兵士に命じて有無を言わせず連行させた。この思いがけない災難を、混乱の中ちょうど遠く離れたところにいた藤原は垣間見ていたが、地団太を踏んで悔しがっても間に合わなかったのである。
  遣唐使団の宿舎では、二人の日本の僧侶が数珠を手に門のそばにたたずんでいる。宿舎の建物は、簡素で上品な造りだ。城内のにぎやかな通りに比べてひっそりと静かだ。次々と集まって来た避難者たちは、危難を乗り越えて生き延びた者同士、思わず手を握って、互いの無事を祝いあった。
  この時、慌ただしく宿舎に入って来た藤原刷雄は悲しそうな表情で、力なくため息をついて「ああ――不幸にも楊昢殿が捕まってしまった。皆、助からないだろうと言っている!」
  「ええ?!」楊貴妃は驚いて色を失い倒れそうになり、阿蛮が慌ててその体をしっかり支えた。藤原はそれを見て、今が説得の時と判断し、「楊貴妃様、楊昢殿が捕まり、追手は勢いを得て、次々と襲ってくるでしょう。今は決断の時です。日本へ渡り、万全を期すのです。」周りの皆が頷いて賛同しても、ただ一人楊貴妃は黙って眉をひそめたままである。
  宮殿楽師の馬仙期が楊貴妃の心中を察し、勇敢にも、事の次第は必ず細大漏らさず玄宗皇帝にお伝えすると自ら買って出た。楊貴妃を支えている阿蛮は熱い涙を目いっぱいにためながらも、頷いて賛成した。傍らの魚得水も鼻の奥がつんとするのを感じた。
  楊貴妃はすでに退路が全て断たれたことを自覚し、目に涙を浮かべて天を仰ぎ「我が君様、お許しください、他に術がないのです――!」と嘆いた。

(六)

  楊州。大運河埠頭。
  遣唐使の帰国船団が帆を上げ、出立の時を待っている。
  楊貴妃、阿蛮、魚得水らが船上で別れを惜しんでいる。
  馬仙期は荷物を背負って岸辺で涙にくれ、言葉もない。
  ボー! ひゅうひゅう――!
  ほら貝の音が響き、風がそよぐ。
  風を受けて膨らんだ帆が河面と空の狭間に向かって翻る。
  藤原刷雄が楊貴妃らを船団の主船の船室へ招き入れる。船室は広々としていて優雅な造りだ。
  楊貴妃は悲嘆にくれた表情を浮かべ、弱弱しく吟じる、(李白の詩)
  孤(こ)帆(はん)の遠影(えんえい) 碧空(へきくう)に尽き 唯(ただ)見(み)る 長江の天(てん)際(さい)に流るるを
  阿蛮、舞をはじめ、応えて詠む、(王勃の詩)
  落霞(らくか)孤鶩(こぼく)と齊(ひとし)しく飛び 秋水(しゅうすい)長天(ちょうてん)と共に一色
  藤原が手を打って思わず唱和する、(李白の詩)
  長風(ちょうふう)波を破るまさに時あるべし 直ちに雲(うん)帆(ぱん)を掛けて滄海(そうかい)を済(わた)るべし
  魚得水は目前の情景に心を動かされて、思いのたけを歌に詠む(魚得水の自作)
  花雕(かちょう)金(きん)酒(しゅ)に毎日酔う 遥かに祝う 吾が皇(きみ)万々歳と 

(七)

  東海は茫洋とし、夜色が重く垂れこめている。
  遣唐使の帰国船団は風に乗り、波濤をかき分けて進んでいく。
  楊貴妃が船室で、物思いに沈んでいる。表情には疲労の色が濃い。
  阿蛮が果物などを運んでくるが、楊貴妃は首を微かに振るばかり。まったく食欲がない様子である。
  やがて藤原が船室に入ってきて、何か言いたげだがためらって言わない。阿蛮が気を回し、辞去する。藤原は船室の外の風に気付くと、身に付けていた羽織を脱ぎ、楊貴妃の背に掛けてやった。楊貴妃はすぐに体の向きを変えて受け取った羽織を藤原の背に戻し、微笑みながら「あなた様ったら、外を行き来なさるあなたのほうが、もっとお寒いでしょう!」と言うと、藤原の愛慕のまなざしを避け、真顔で「副使様、あとどのくらいで日本に着くのですか?孝謙天皇にはいつごろお目にかかれるのでしょうか?」と問い掛ける。
  藤原は気遣うように、「満月の頃には日本に着きますよ。貴妃様にあらせられては、御身をお大切になさいませ」と小声で答える。
  「お大切に?どうしたものでしょう……」楊貴妃は言いかけて口ごもる。
  船室の外で大きな風音がして、船が激しく揺れる。楊貴妃は不意を突かれて、よろめき倒れそうになる。藤原刷雄はとっさに歩み出て仰向けに倒れそうになった楊貴妃のしなやかな体を抱きとめた……。
  「ああ!足元に気を付けて!」阿蛮がこう叫びながら魚得水を連れて船室に入って来る。二人はそれぞれ湯気の立った茶器や酒の壺などを手に提げている。
  魚得水はしっかりとした足取りで進み出て楊貴妃に見(まみ)え、酒の壺を指しながら「これは古来秘伝の処方で作った「気を補い血を養う花雕金酒」だと言い、そっと楊貴妃の前に置いた。楊貴妃は、思わず興味をそそられて、嬉しそうに「まあ、気を補い血を養う銘酒なのですね! さあさあ、皆さんも一緒に席にお着きください――」と言う。阿蛮は何も臆することなく笑顔で魚得水に、先ず先に席に着くよう勧めた。藤原は最初気まずそうにしたが、目の前の楽しい雰囲気のおかげで溶け込むことができた。
  正に、艱難を共にするとき、君臣は分け隔てなく、共に杯を挙げて楽しい時を過すのであった。
  楊貴妃は楽しそうに酒を酌み交わし、その飲みっぷりは男に負けなかった。藤原は気概を示し続け様に八杯も飲み干し、なんと魚得水もこれには心服して負けを認めた。楊貴妃は喜んで魚得水に突然尋ねた。「酒造りの名手であるあなたに聞きますが、日本でもこのような美酒を手に入れることができるでしょうか?」
  魚得水と藤原、阿蛮までもが異口同音に「できますとも!きっと!」と答えるのだった。

(八)

  瀬戸内海沿岸。
  祝いの太鼓が響き渡り、あたりは喜びに包まれている。
  藤原仲麻呂大将軍が意気軒高な様子で岸辺に立っている。孝謙天皇の命を受け、大唐の楊貴妃を出迎えにやって来ているのだ。大将軍の背後には一隊の護衛兵が控えている。皇室の礼典に則って、厳かに礼砲が放たれ、楊貴妃一行の日本来臨を迎えた。
  仲麻呂大将軍が進み出て礼をすると、楊貴妃が謹んで謝意を表した。太鼓を交えた音楽の中、駕籠(かご)がゆっくりと進み、騎馬隊が後に続き、堂々とした行列は、賓客をもてなすために青々とした山と海の見える地に建てられた宿舎へと向かった。
  宿舎へ向かう道すがら、藤原刷雄が貴妃に耳打ちし、藤原仲麻呂が彼の父親であり、孝謙天皇を補佐する大役にあることを告げる。楊貴妃はにっこりと笑って「まあ、高貴なお家柄、どうりで普通の方とはどこか違っておられる!」とささやいた。
  突然、前方から土煙を上げて早馬が駆けてきた。馬上の使者が側道を越えて直接大将軍の旗のもとに馳せ参じ、緊急文書を一人の将官に手渡した――
  「反乱軍突然の騒乱に対処して勅命を下す:大将軍藤原仲麻呂は直ちに都に戻り、藤原刷雄が父に代わって貴妃一行を接待し、然るべき吉日に平城京での大歓迎宴を執り行うべし。」
  藤原の父子はそれぞれ馬を降り、二人そろって楊貴妃の駕籠の前に進み出て、緊急事態が発生した旨を伝え、平城京での再会を約束した。
  都への大通りに土煙を立てて、仲麻呂大将軍は使者とともに都へ向かい、二頭の早馬はあっという間に見えなくなった。
  瀬戸内海沿岸の山口県大津郡(現在の長門市)の久津地方。(伝説によれば当時楊貴妃が日本に渡り上陸した場所だという。その証拠として、楊貴妃の墓と記念の石碑が残されている。)
  宿舎は山あり海あり、風光明媚な場所にあった。
  楊貴妃一行身軽な服装で、藤原刷雄に伴われて宿舎の周りを散策し、落ち着いた静かなこの地方の風景を楽しんでいる。 
  時はまさに収穫の秋。沃野には稲穂が実り、風になびく金色の稲穂が一面に広がっている。
  楊貴妃はふとなにかを思い立ったような様子。目の前に日本へ向かう海上で「たっぷりの酒」を君臣共に楽しんだ時の様子が浮かび、耳にはその時酒の勢いで盛り上がった勇ましい言葉が聞こえる――
  「酒造りの名手であるあなたに聞きますが、日本でもこのような美酒が手に入るでしょうか?」という問いに、「できます、きっと手に入りますよ!」 魚得水と藤原、阿蛮が異口同音に力強く答えた言葉。
  この時、楊貴妃はすぐに魚得水と相談して、この豊かな収穫を活かして、この地で酒を醸造することを決めた。藤原はそれを聞いて思わず「それはいい!」と叫んだ。
  楊貴妃は聡明で率直な人柄、計画を提案し、その実行を固く誓う。
  魚得水はその熟練した腕を振るい、巧みに適材適所に人を配した。
  藤原は必要に応じて喜んで便宜を図り、強力に支援してこの事業を推進した。
  真っ白な米が流水の中でもまれ、きれいに洗われた酒甕が陽光にきらきら輝く――

(九)

  平城京御所。長安の皇宮によく似ている。
  皇室の歓迎式典が、みやびやかな雅楽の音にのって執り行われている。
  孝謙天皇が堂々とした気品を湛えつつ、完璧な礼儀作法を尽くし、異国からやって来た楊貴妃には優しい配慮を怠らなかった。二人は前後しながらゆっくりと段を登り、互いに譲り合った後、微笑んで同時に着席する。
  天皇の家臣たち、楊貴妃に従ってきた随員たちもそれぞれ招き入れられ、一同席につく。
  酒杯が三巡する頃には、皆すっかり打ち解けていた。女性の天皇である孝謙天皇は、唐の優雅な習わしに鑑みて、楊貴妃に詩を吟じて興を添えてほしいと丁寧に所望した。楊貴妃はこの宮殿があまりにも長安のものとそっくりなので、はげしく心を動かされ、詩を詠んだ。
  長安別離愁  長安別離の愁い (長安で味わった別離の苦しみ)
  東瀛逢春秋  東瀛春秋に逢う (美しい日本で癒されるおもいです)
  海上共明月  海上で明月を共にすれば(ともに月を愛でることができれば)
  天涯何所求  天涯何をか求めん(他になにを求めましょうか)
  と詠(うた)った。
  孝謙天皇はいたく心を動かされ、思わず「まあ!素晴らしい文才ですこと。思いがそのまま詩になるのですね。楊貴妃様を日本にお迎えできるのは天が賜った光栄です! 今、そのお言葉『海上で明月を共にすれば、天涯何をか求めん』にあやかりましょう、うん、そうだわ……私たち二人ここで姉妹の契りを結び、姉、妹と呼び合いませんか?」と言う。
  楊貴妃は身に余る言葉に驚き喜び「喜んで!楊玉環、無上の幸福でございます。孝謙天皇様に跪いて拝み、終生のお手本としてお姉さまとお呼びします――」と答えながら、向き直って身なりを整え礼を行った。「孝謙姉さま、妹玉環の礼をお受けください」!」孝謙天皇は感激の表情を浮かべて、両手を広げて楊貴妃と抱き合った……。
  この時、音楽が一斉に奏でられ、主客共に万歳を三唱した。
  孝謙天皇は大いに喜び、美しい歌姫を呼んで歌を献じ、
  楊貴妃もすぐにその意を察し、阿蛮に命じて舞踊を献じたのであった。
  歌と踊りがまさにたけなわとなった頃合、藤原仲麻呂が埃まみれで到着する。
  孝謙天皇も慌ただしく人払いをし、楊貴妃をその場に引き留めて、共に対策を相談した。
  仲麻呂によれば、宮廷に対する謀反の勢い、いよいよ激しく、更に深刻な事には藤原氏一族である藤原豊成も反乱軍に加担しているという。
  孝謙天皇、楊貴妃に、「昔、大唐帝国で起こった謀反はそもそも内部の裏切りによるものであったのではないか。それならば、如何様に対応したのであろうか」と尋ねた。
  楊貴妃が藤原豊成の来歴を訊くと、仲麻呂はその者がもともとずるがしこく立ち回ってうまい汁を吸おうとする人物であると見抜いていた。楊貴妃は少し考えると、顔を上げて微笑み、ここは事を荒立てず敵を分裂させ瓦解させて勝利する策がよろしかろうと献策する。兵法で言うところの「傷其十指、不如断其一指(十指を傷つけるは、一指を断つに如かず)」である。
  孝謙天皇は感心して盛んにうなずく。藤原仲麻呂も膝を打ってこの策に賛同し、楊貴妃に具体的な戦術をさらに訊いたのであった。
  楊貴妃はかくかくしかじかと献策し、孝謙天皇は藤原仲麻呂にそのように命じた――

(十)

  和歌山のふもと、反乱軍の軍営。
  藤原豊成が幕屋の中で諸将と軍議の真最中である。
  豊成に会わせてほしいという使いの者が来ている。
  豊成がこれを許すと、藤原の家紋を付けた灯籠を掲げた二人の兵士が幕屋に入ってきて、藤原の母御前が病を得て危篤だと知らせた!
  藤原豊成は部下に簡単な指図を与え、軍営を出て馬に跨り、二人の兵士と共に風を切り、馬を駆って行った。
  藤原豊成が家に到着してみると、母御前が座敷に座っているので、大いに驚いた。ここで、母御前は厳しい口調で豊成を叱責する。「この不孝不忠の不心得者、なぜ御国に叛くのか?」
  「こ、これは……?」豊成が抗弁しようとしたそのとき、屏風の後ろから笑い声が聞こえてくる。「ははは!こ、これはどうしたことかな?」
  その声と共に、藤原氏一族の藤原仲麻呂大将軍が出てきて、笑いながら説得する。「兄弟、母君に従い、改心して出直しなさい。共に皇室をお守りし、祖先の栄光に報いようではないか。」
  豊成は顔を真っ赤にして言葉に詰まる。
  滾々(こんこん)と諭す老母の言葉は心にしみた。
  仲麻呂はいまこそ好機と、豊成を座敷の隅に呼び、ひとしきり耳打ちする……
  広野で対峙する両軍。
  藤原仲麻呂が馬上で号令し、兵士らが陣容を整えて待機している。
  反乱軍の首領である橘(たちばなの)奈良(なら)麻呂(まろ)、大伴(おおともの)古(こ)麻呂(まろ)、佐伯(さえきの)全成(またなり)らが太刀を帯びて馬上におり、今にも進撃せんとしている。
  藤原豊成は反乱軍の首領に付き従っていたが、兵を分け敵の後方に回りこんで攻撃し速戦即決を期すという作戦を自ら申し出た。首領はその勇気をしきりに褒めると、藤原は司令旗を振った……。
  戦鼓が地を揺るがし、戦いの雄たけびが天を震わす。
  藤原仲麻呂は勝利を確信して、率先して戦い、士気旺盛な大軍を従えて敵陣に斬り込み、死闘を繰り広げた。
  ちょうどこのとき、敵の後方に回っていた藤原豊成が突如矛先を翻し、反乱軍の不意を突いて挟撃した。反乱軍は大混乱に陥り、まもなく軍は壊滅、散り散りに敗走した。
  戦いは短時間で終わり、捕虜となった反乱軍兵士は四百数十余名を数えた。藤原仲麻呂は鞭を振るい馬を駆って戦果を見回し、喜びの表情を浮かべた。

(十一)

  「平城京」では反乱平定の功を祝う宴が催されている。武将たちは意気揚々と歩き、二段を一跨ぎで階段を上がって行く。文官も喜びの表情でゆったりと歩いている。一斉に音楽が奏でられ、遠くから叙事歌謡が聞こえる。
  皇居は祝賀気分に沸いている
  戦勝を祝い功労をねぎらう宴にかぐわしい酒の香り漂う
  反乱平定を告げる将は戦勝の喜びに酔い得意満面
  反乱軍を裏切って大功を立てた者は
  美酒を痛飲して我を忘れ有頂天
  功労は十人十色
  各々異なる胸の内
  歌声が次第に遠ざかり、儀式の進行役が大きな声で唱える――
  「天皇陛下のおなり!」
  一瞬の間に、全員が起立して、皆がその方向を望み見た。錦に飾られた広間の入り口から、満面に笑みをたたえた女性天皇と明るい笑顔の楊貴妃が手に手を取って、本当の姉妹のように足並みをそろえて歩いて来る。
  孝謙天皇が、優雅でありながら力強い声で、勇猛な将軍や忠実な家臣たちに対し、厳かに楊貴妃を紹介した。「天が偉大な力を賜り、吉祥の雲が金色に輝いています。此度の反乱平定の勝利は、楊貴妃様の功労によるところ大であります。一衣帯水を越えて訪れた楊貴妃様こそ、平和の天使と呼ぶにふさわしいお方です!天使様――」
  皆、その声を聞き、しんと静まり返った。楊貴妃が控えめに礼儀正しく立ち上がり、深々と礼をし、心からの謝意を示す。孝謙天皇は楊貴妃の優雅で気品に満ちた立ち居振る舞いにひそかに見惚れるのであった。そして互いに見つめ合うと、心が通じるようでもあった。楊貴妃は孝謙天皇の両の目の輝きに、その意をくみ取って、その「天使」との褒め言葉の意味を悟った。そしてすぐさま腕を伸ばし、両の手を三度軽く打ち鳴らした!
  おお!それは、あらかじめ決めていた合図だったらしい――
  魚得水らが藤原刷雄に導かれて十二の「花雕酒壜」を運んできた。酒壜の外側には花の浮彫が施されており、それら十二か月の花々は色鮮やかで生き生きとしている。宴に集ったすべての者は呆然とする。
  更に驚いたことには、孝謙天皇も長い袖を緩めて、しなやかな腕を半ば露わにして、同じように三度軽く打ち鳴らした。すると、十二名の官女が飛ぶように軽やかな足取りで、まるであの十二の酒壜の浮彫の花に誘われてくる蝶のようにやって来た。官女たちが慣れた手つきで酒壜の蓋を開けると――わあ!人の心の奥に沁みるような、甘い香りが鼻をついた。皆、美酒の誘惑には勝てない――ああ!琴の調べの中、官女らが酒を運び……十二杯が何度か巡るうちに、馥郁とした香りは宮殿に満ちあふれた……
  孝謙天皇は楊貴妃が両手で捧げる杯を受け取って、喜び、一目見て驚く。「まあ!この花雕の美酒は、なぜ透き通っているのですか?」
  楊貴妃は孝謙の疑問を察して、微笑んで答えた。「さすが聡明なお姉さま、何でもご存じなのですね。このお酒は、花雕酒壜に入ってはおりますが、実は御国の山口地方の水稲で醸造したのです。酒壜に施された花の浮彫は、世界の幸福を祈願しています。そして琥珀と水晶の縁は永遠なのです。」
  孝謙天皇は興味津々で尋ねる:「おお!琥珀と水晶? その意味は?」
  楊貴妃は杯を挙げて:「東瀛(とうえい)(日本を指す雅称(がしょう))の美酒、色清かなこと水晶の如し――」
  孝謙天皇は突然悟って:
  「――大唐の銘酒、濃きこと琥珀の如し。素晴らしい!」
  楊貴妃は以心伝心で:「天から賜った良き縁で、幸運にもこの盛大なる集いを得た。琥珀と水晶は互いに映えて輝やく。」と応じる。
  ちょうどこの時、音楽の演奏が始まり、楊貴妃の祝福の言葉に花を添え、その余韻がいつまでも続いた。
  反乱平定に功労のあった臣下たちと賓客の席。既に嫉妬に燃えていた藤原豊成は、自分の手柄を無視されたことに腹を立て、鼻であしらって「ふん!琥珀と水晶なんてこじつけに過ぎない、大げさな!」 この不平不満は、幸いなことに優雅な音楽に覆われて聞こえなかったので、不測の波風が立つことはなかった。
  しかし、近くに座っていた藤原仲麻呂は警戒心が強く慎重だ。鼻息も荒く「ふん!こじつけどころか、明らかな茶番劇だ……」と漏らし、心の底では火山のように「不公平だ。天皇の権威はどこにあるのか?!」と怒鳴りそうであったが、沈着冷静に表には出さず、適当な名目を借りて大きな声で「乾杯!」と叫ぶと、左右の将校たちも次々と唱和して、宴席の雰囲気はさらに盛り上がった。
  孝謙天皇が天下に公示する。「本日この酒を『貴妃清酒』と命名する!」
  芳名が定まると、宴席の全員が「万歳!万歳!万歳!」と歓呼した。
  皇居の奥の間。静かで優雅。
  宴席はすでに終わっているが、お酒の香りは残っている。孝謙天皇は楊貴妃と一緒に奥の間に入る。ほろ酔い気味で、互いに無言である。
  少し酒に酔った楊貴妃の目にはこの奥の間が大唐長安の皇宮の優雅なたたずまいにあまりに似ているので、玄宗皇帝への思慕の情がこみ上げ、こらえきれず深いため息をついた。
  孝謙天皇は姉妹の情に突き動かされて、そのため息のわけを尋ねる。
  楊貴妃は、「玄宗皇帝の消息が分からず、夜も眠れないと」素直に答える。(そっと涙ぐむ)
  孝謙天皇は、即座に、再度遣唐使を派遣し、長安へ急行して状況を究明することを決めた。
  楊貴妃は感激の涙を流して、厚意に感謝し、姉のような孝謙天皇と肩を寄せ合って月を見上げた。
  ほら貝の音が長くこだまする。
  船が帆を揚げ、遣唐使使節団は支度を整えて出発を待っている。
  遣唐使船が停泊する岸辺で、藤原刷雄が魚得水を見送る。別れに臨んで、語るべきことはあまりにも多い。二人は一頭の白馬の陰で小声で話し合っている――
  「君は酒甕が割られたりして、敵に狙われているのに、なぜ敢えて戻ろうとするのだ?」藤原刷雄は心配して尋ねる。
  「虎穴に入らずんば虎子を得ず」ときっぱりと答える魚得水の決意は強く、深い思いは一途だった。「琥珀と水晶、単に色が違うだけではない。大唐の正当な銘酒を醸造するにはどうしても琥珀色を醸し出す秘術が必要なのだ。そのためにも、危険な旅に出なければならない。そのためなら虎穴に入る危険を冒す価値がある!」
  「見上げた心意気だ!魚得水の名の通り、水を得た魚となってくれ!吉報を待っているよ!」
  「君は藤原家で最も見込みのある男だ、その時は私が作った琥珀色の銘酒で、きっと酔わせてみせるよ!ははは!」
  遠くから急いで駆けつけるう馬の蹄の音が聞こえ、謝阿蛮が馬車に乗って見送りに来た。阿蛮は精緻な木箱をを魚得水に手渡して、厳粛な面持ちで、これは楊貴妃様から託されたものであるから、玄宗皇帝に会うまでは決して開けないようにと告げた。
  魚得水は謹んで承(うけたまわ)ったと答え、今度は笑って、唐にいる馬仙期には何を届けてほしいかと尋ねる。阿蛮は大胆にも皆の目の前で片方の耳飾りを外し、必ず直接手渡すようにと言い含めた――ゆかりの品にゆかりの人を見るのは、夢にも思いあう心があるから!
  重任を肩に背負い、誓いの贈り物を手にした魚得水は、船に乗り込んでいる遣唐使使節たちの後を追ったが、自分が列の最後の一人だと気づくと、急いでよじ登り、目に涙を浮かべて振り返った……。

(十二)

  中国四川、成都への大通り。土煙が舞い上がる。。
  馬仙期が馬に鞭を当て疾走してきて、城門を入る。
  成都の行宮所。内装は、至って質素である。玄宗皇帝が部屋の中で行ったり来たりしている。眉をひそめた沈鬱な面持ちである。
  内侍が進み出て「楽師・馬仙期が到着し、お目通りを乞うています」と小声で伝える。玄宗はたちまち元気になって、急いで人払いをするなり馬仙期を迎え入れるよう命じる。
  長旅で疲れ切った馬仙期は三歩進んで跪く礼をして、涙にむせびながら「我が君、万歳!」と言う。
  玄宗皇帝は深くため息をついて「苦しゅうない。万歳がなんの役に立つだろうか? 危難に遭って、生きていられたのは天の恵みだ!」
  馬仙期は、慌ただしく「我が君様の仰せの通り、天はお見捨てになりませんでした。楊貴妃様は生きておられます!」と言う。
  玄宗皇帝は驚いて「なんと?玉環が生きている?まことに玉環が生きているのか?」と言う。
  馬仙期は「揚州での偶然の出会い」から「日本への逃避行」への一部始終を報告した。馬仙期の話を聴きながら玄宗皇帝の目に映像が重なる――
  揚州城内で追手の兵士が横行する様子。遣唐使の宿舎に一時身を隠したものの長くとどまるのは危険だったこと。楊昢大臣が捕まったとの報に触れて楊貴妃が途方に暮れて術を失ったこと。藤原刷雄が策を献じて、真剣に相談したこと……。
  長江の濁った水の波打つ中日本へ向かう船が帆を揚げて出立する。船上の楊貴妃が手すりに寄りかかり遠くを見渡し、腕を振って別れを告げる。岸辺の馬仙期は長い道のりに思いをはせて無言で涙を流す……
  ――話を聴く間、玄宗皇帝は喜びの涙を流し、ひそめられた眉間がとうとう緩んだ。
  このときだった。早馬の報せがあり、「皇太子・李亨が回紇(かいこつ)(唐代の北方トルコ系異民族)の加勢を得、既に安禄山反乱軍の残党を平定し、長安、洛陽各地を奪回し、李亨は、玄宗に長安に戻られるよう請うている」とのことだった。
  驚いた玄宗は驚きと喜びが相半ばする中:「なんと?これは天がお見捨てにならず、山河を返してくださったに違いない!」と言う。

(十三)

  晴天の霹靂。暗雲が迫り、太陽を覆い隠してしまった。
  朝廷は紆余曲折を経ることになる。李亨が父にとって代わる手に出たのだ。反乱平定の大功を傲慢に誇り、父の皇位を奪い自ら皇帝と称した。長安の宮殿には祝賀の鼓楽が響き渡り、大変な賑わいを取り戻した。役人たちが続々と参内したが戸惑いながら顔を見合わせている……、
  反乱が平定されたばかりの都は、復興には時間がかかりそうだ。農地は荒れ放題で、長安の通りはさびれてしまった。
  長安に戻った玄宗はその惨状を見て、またも、悲しみがこみ上げるのだった。
  李亨は玄宗をに上皇に祭り上げ、それを名目に玄宗、馬仙期一行を「興慶宮」に軟禁する。
  悪いことは続くもので、「琥珀の秘伝の製法」を求めて、艱難辛苦の末長安に潜入した魚得水もまたどういう訳か、軟禁されていたのであった。しかし、魚得水にとっては幸運なことに、世間から隔絶されたこの興慶宮でこそ、玄宗皇帝に見(まみ)えることができたのだ。魚得水はすぐさま肌身離さず携えて来た木箱を取り出して、楊貴妃様から託された物だと言って差し出した。上皇玄宗はこの時、悲喜こもごもの思いに、君臣の礼を行う余裕もなく、振るえる両手で、慌てて箱のふたを開け、見開いた目が、見覚えのある懐かしい翡翠の腕輪を認めるや、楊貴妃への愛慕の情がよみがえる。「ああ!玉環よ、玉環、余のそばにいてくれるのか?」と言い、振り返ってまた箱の中を探ると、なんと一筋の長い黒髪を見つけた。「ああ!黒髪、黒髪。一触即発の危機と言う意味ではなかろうか?おお、この謎は……難しい!」
  「上皇様、これは琥珀の意味でございます……」魚得水が耳打ちすると、上皇は目を見開いてうっとりと「おお、おお?琥珀と水晶……この大業そなたたちに託そうぞ!」と言う。
  この時、知らせを聞きつけて馬仙期もやってくる。魚得水は振り向いてそれを迎えると、すぐさま阿蛮の耳飾りを手渡す。馬仙期は阿蛮の心のこもった誓いの贈り物を見て、思わず感情を隠し切れず、涙が頬を濡らした。
  上皇はこの忠実な家臣を目の前に惻隠の情を生じ、ひそかに高力士を呼び寄せ、なんとか抜け出す方法はないものかと問う。高力士は玄宗の側近だけに、その心が手に取るようにわかる。夜の帳(とばり)に乗じて馬仙期と魚得水を秘密の幽閉地から逃がした。
  出立の前に、上皇は自らの詩作を馬仙期に贈り、詩文を携え、琴の音に合わせ吟ずることで、長い旅路にあっても心は共にあるとの思いを伝えた。上皇はまた向き直って一つの宮廷の匂い袋を魚得水に渡し、意味ありげに合図の瞬きをして微笑んだ。
  長江の岸辺。遠くに船の帆が見える。
  馬仙期が一艘の小舟で、上皇から賜った詩文を取り出し、船べりを軽くたたいて拍子をとり、詩句を口ずさみ、歌いながらうっとりとしている……
  船尾に1人座っていた魚得水は何かを思いついて、あの宮廷の匂い袋を取り出し、外側や内側を繰り返し見ていたが、宮廷のハンカチを取り出して繰り返し見ていたが、突然驚き喜んだ。なんと、匂い袋の内側に「琥珀の秘密は会稽に潜む」と上皇の尊い細字楷書の筆跡で書かれていた。上皇様のご明察、あの時献上した秘伝の業、実は目と鼻の先にあったのだ。魚得水は一心に歌を歌っている馬仙期に向って叫んだ。「仙期兄弟!また会おう――」と言うが早いか、魚得水は身を翻して川に飛び込み、力強く泳いで岸に向かった。馬仙期はあっけにとられて、どうしてよいかわからない。
  遠くでは、遣唐使の旗印を掲げた大型船の船べりで、日本の使節がちょうど馬仙期に向って盛んに手を振っていた――
  ボー!耳慣れたほら貝の音が鳴り渡り、馬仙期はついに故郷へ思いを馳せる激情から我に返り、慌てて両腕を振った。小舟が遣唐使の大型船へと疾走する。

(十四)

  日本平城京内。とある屋敷の中。
  藤原仲麻呂がいきり立って、孝謙天皇への不満を訴える。彼を重用しないだけではなく、得体のしれない唐の邪悪な妃といつも一緒にいて離れない。このままでは、国の行く末が危ぶまれるというのだ。
  藤原豊成は矢も楯もたまらず、直言してはばからない。「女の権威は男には及ばない、しかし、臣下の権威は君子の権威には及ばない、軍の統帥権は握っていても、役に立たない。所詮君子の権威には及ばないからな!」積み上げた炭火が、屋敷の炉で燃え上がる。炉を囲む将軍たちは次々と発言し、闘志満々に勇み立つ。
  ただ藤原刷雄だけは遠く離れたところに立って、固く口を閉じている。突然、腹痛を口実に、用足しにかこつけて退席した……
  このとき、密偵が報せをもたらす。
  朝鮮半島の新羅から、安史の乱に倣(なら)い、藤原氏と手を結び、内と外から挟み撃ちにし、孝謙天皇の世を覆し(くつがえし)、男性の政権を復活させようとの申し入れだ。
  藤原仲麻呂は我が意を得たりとばかり、大いに喜び、使者に厚い褒美をとらせるなり、奮い立って気心の知れた諸将を呼び集め、反乱による皇位簒奪の計略を練った。
  皇居の客間、明るい灯が輝いている。  
  楊貴妃の居室は優雅で美しい。阿蛮が訪ねて来た藤原刷雄を迎え入れて部屋に通す。楊貴妃は格式張らずに礼を尽くし、円卓に置かれた「貴妃清酒」でもてなし、藤原刷雄と杯を交わし、続けて三杯飲んだ。
  藤原刷雄はもともと憂鬱な気持ちで来ていたためか、酒に酔ってしまったようで、楊貴妃に対する真摯な気持ちもあって、心の中の悩みを打ち明けた。藤原家の家系を汚すような謀反の動きがあることを嘆く心を吐露し、自分は孝謙天皇に忠義を尽くす覚悟であり、謀反の徒党とは相いれないと誓うのだった。
  楊貴妃は刷雄の誠実な態度ををひとしきり賞賛し、必ずや刷雄と力を合わせ、孝謙天皇がこの危機を脱することができるようお助けしようと語りかける。
  皇居の奥、孝謙天皇の客間、明るい灯が輝く。
  侍女に案内されて、楊貴妃が藤原刷雄を伴って、夜更けに孝謙天皇への上奏報告に訪れた。
  孝謙天皇は二人を信頼しており、胸襟を開いて相対し、なんでも包み隠さず話し合った。
  藤原ははげしく自らを責め、恥じ入りつつ、父らが天皇陛下に対する謀反を企んでいることを洗いざらいさらけ出した。
  孝謙天皇すこしも慌てず、先々を見通して深く考え、方針を立てるため、二人に対して謙虚に献策と協力を求めた――
  藤原は、決然として、「兵が来れば将で食い止め、水が来れば土で堰(せ)き止める(必ず適切な方策で対処できる)」と言い放つ。
  楊貴妃は沈着冷静に述べる。「水は船を浮かべるが、船を沈めることもあります。」そして、眼前の杯を指さしつつ、「酒は人を酔わせるが、人を目覚めさせることもあるのでは!?」と語り、流血を避けて謀反を平定する妙案を提案した。

(十五)

  平城京の宮殿。
  盛大な酒宴が催されている。
  文武百官が居並ぶ中、孝謙天皇は「先般の謀反平定に際し功労のあった家臣に対し本日褒賞を与える。また、この良き日に、大唐帝国の文化の宝を楽しむ幸せを共にしたい」と宣言した。
  楊貴妃は、集まった賓客に笑顔を見せて、手を挙げて打ち鳴らすと、それを合図に、たちまち優雅な琴の音と、軽やかな鼓の音が聞こえ『霓裳羽衣曲』がゆっくりとはじまった。踊り手たちの美しい舞姿はしなやかで、長い袖がひらひらたなびき、宮殿が幻想的な天上世界になったかのようであった。
  給仕たちは、そうしている間にも賓客たちに「貴妃清酒」を酌してまわる……
  突然、藤原仲麻呂が席を立ち、大声で呼ばわった。
  「舞は美しいし、酒もうまいが、いったい何をもって謀反平定の功に報いるというのだ」と。
  すると、今度は孝謙天皇が一言一言に重みを込めてきっぱりと答える;
  「謀反を以て謀反に相対す、それにいったいどんな報奨を与えよというのか」と。
  藤原仲麻呂らはこれを聞いて驚愕し、うろたえて、本能的に佩(はい)刀(とう)の柄を握り、その場の雰囲気が一変した。皆しんと静まりかえり、舞姫たちも瞬く間に退場した。
  「ほほほ……玉環おそれながら、孝謙天皇様に申し上げます!」と鈴を転がすような声が聞こえ、楊貴妃がゆったりとした足取りで、広間の真ん中に歩み出でる。
  この時、仲麻呂は刀の柄を握りしめたまま、身をこわばらせて何も言えず、左右に向けて目くばせし、仲間たちに暫し様子を見て騒ぐなと警告した。
  孝謙天皇は周りを見回して、その変化を見て取ると、大きな声で「明朗な天帝の権威のもと、はばかることはありません。楊貴妃様、遠慮なくおっしゃってください!」と言うが早いか、女性天皇が両の袖を振ると、数十名の屈強な武士が広間の周囲に堂々と立ち並び、宮廷最強の護衛隊の様相だ。
  楊貴妃は孝謙天皇が頷いて励ましてくれるのを見て、感慨を覚え、穏やかな表情で訴えた。「数ヶ月前、大唐帝国では安史の乱が起こり、太平の世を……覆しました!」この瞬間、こらえきれず涙声になり、「それでも……九死に一生を得て、幸いにも、天のご加護で、玉環はこの美しい日本の地に辿り着き、今や天皇陛下と姉妹と呼び合うめぐみに預かりました。ただ……ただ願うのは家族のように親しく極楽浄土のような貴国を愛でること……そしていつの日か大唐が復興したら、海を隔てて絵のように美しい故国の山河を望むこと……」と言う。すると、はるか遠いどこからか、やわらかで優雅な古筝の調べが、流れてきて、人々をうっとりさせた。楊貴妃は、思わず知らずその調べに乗って舞い始める。美しい袖を巧みに広げたり延ばしたりするその舞はまさに神業である。
  主題歌《琥珀と水晶》
  明るい太陽は宮殿を照らす
  穏やかな風に芳醇な酒の香り漂う
  酒は馥郁として水晶のように透き通り
  酔って富士を望めば雲に隠れた美限りなし
  高高と連なる長城に刃が輝き
  立ち上る狼煙に意気盛ん
  黄金の美酒は琥珀色
  灯掲げ剣を照らせば雄志みなぎる
  桜が春を告げる扶桑の美限りなく
  神州の牡丹万人こぞって洛陽に遊ぶ
  琥珀と水晶が美を競い
  優劣久しく語り継がれるも
  遠くの親戚より近くの他人というとおり
  杯交わし心通えば心温まる
  琥珀と水晶は太陽と月の輝き
  互いに照り映えて東方に光明もたらす
  ああ――
  琥珀と水晶は太陽と月の輝き
  互いに照り映えて東方に光明もたらす
  曲が終わってもその余韻は残り、会場は歓声に溢れた。
  楊貴妃はお辞儀をして謝意を表し、この盛り上がりの機会を逃さず、思いを語る。「……絵のように美しい山河、平和な世界。謀反があれば必ず国は乱れ、善い物も悪い物も共に滅びてしまいます。何が良くて何が悪いかは、有能の士に判断を仰ぐしかありません。大局を重んじてこそ将軍と言えるなら、将軍の長たる大将軍はなおさらでしょう……」
  「お待ちあれ!むやみに褒め称えてはなりません……」藤原仲麻呂が席から立ちあがって広間の中ほどに踏み込み、「楊貴妃殿の舞姿、真に比類なしとお見受けしたが、この老いぼれとて剣術なれば婦人には引けを取りません。どうでしょう、天皇陛下の御前で手合わせ願えませんかな?」と言いながら、なんと刀を捧げ持って一礼したのだ。
  「大将軍のおかげさまで……同じ舞台で舞い、陛下にお捧げ出来ますのは実に幸いなことでございます!」と楊貴妃は顔色一つ変えず、落ち着き払って進み出ると、体を斜めにして礼をし、孝謙天皇に目くばせして微笑んだ。
  孝謙天皇は意外な展開に少なからず戸惑いながらも「はは、硬軟相合わさった空前絶後の手合わせとなるよう心せよ。」と言う。
  藤原豊成等はひそひそと私語を交わし、ざわざわした。
  藤原刷雄はじりじりと焼けるような焦りと不安を抑えきれず、刀の柄を握りしめて今にも躍り出そうだ。
  突然音楽が始まり、太鼓が雨のように激しく打ち鳴らされる。
  楊貴妃は足取りも軽く、まるで雲や霧に乗っているかのように広間の中央で旋回する。仲麻呂は一足遅れて、手間取ったため、広間の周辺で演技せざるを得ず、その技は的外れで、節度を失ったものになった。見るからに滑稽で無様なので、会場の失笑を買った……。
  会場から、失態を惜しむ声や、あざ笑う声が聞こえたので、仲麻呂は腹を立てて本性をむき出しにし、刀を振るって、やみくもに切りかかったり、突いたりした。このままだと嘘から出た真となって、楊貴妃を傷つけんばかりとなった。
  孝謙天皇は、とっさにその企みに気づき、左右に命じて護衛兵を配置させた。広間の四方から護衛兵が迫ると、藤原豊成等は刀を抜き弓を引いて、会場はにわかに緊迫した空気に包まれ、血で血を洗う宮廷の大事件がもはや一触即発の状況になった……。
  暴風雨のような太鼓と音楽の轟(とどろき)の中、仲麻呂は酔った勢いを装って、鋭い刀の切っ先で楊貴妃の急所を突き刺そうとした……その瞬間、ごとんという音と共に、一振りの鋭い刀が天から降り下ろされ、藤原刷雄が広間に飛び込んできて、父仲麻呂の刃を払いのけた。あ――会場は驚きの声に包まれた。
  楊貴妃は夢から覚めたかのように足を止め、すぐに振り向くと、藤原父子が刀を振り上げて対峙し、殺気立って、生きるか死ぬかの剣幕で互いに引き下がらない……。周囲は騒々しく、天が落ち地が崩れんばかりの状況だ。それでも楊貴妃は落ち着き払って、広間の空間を見極めるや、両足を広げて飛び上がり、藤原父子の頭上を飛び越えて、両の袖を広げて巧みに旋回させ、獲物に襲い掛かる虎のように、相手の身体に巻き付く蛇のように、藤原父子の手から刀を絡めとると、奪い取った二本の刀を合わせて、孝謙天皇に駆け寄り、恭しく献上した。
  孝謙天皇は感激のあまり、こらえきれず両の目から涙を流した。目を挙げて見ると、藤原父子がその場に跪いて、恥じ入って言葉もない。孝謙天皇と楊貴妃は微笑んで歩み寄り、手を差し伸べて藤原父子を立ち上がらせた。
  孝謙天皇は嬉しそうに高らかに笑い、「ははは! 天下無二の見事な妙技であった!父子が力を合わせれば、謀反を許すことができようか!」
  「天皇陛下、ご明察――」藤原豊成は情勢を素早く察知して「これからは、天の恵みを大いに享受し、謀反など起きるはずがありません。根拠のないうわさを恐れる必要はありません!」
  仲麻呂もこの機を逃さず迎合して「根拠のないうわさであれば、自ら吹き飛んでしまうでしょう!」と言うと、息子刷雄が杯をよこして、大きな声で「乾杯!乾杯-――」と勧める。
  乾杯の声が次々と続く。
  孝謙天皇と楊貴妃は杯を挙げて互いに見つめあい、会心の笑みを交わす。
  天皇が「楽園のような国土は、天使がもたらした恵み。謀反を平定した功臣には爵位を加えて栄誉を与える」と宣言する。
  「万歳! 万歳! 万歳!」の声が雷鳴のように響き渡る。

(十六)

  鳴り響く鼓楽。盛大なる婚儀。
  馬仙期と謝阿蛮、一対の新郎新婦が天地を拝礼する。
  楊貴妃と藤原刷雄がそれぞれ杯を挙げ、祝辞を述べる。
  この時、楊貴妃は突然、杯の中に魚得水が「琥珀色を醸し出す秘伝の製法」を求めて奔走する姿を見る……
  ナレーション:「そうです。あの魚得水は既に『琥珀色を醸し出す秘伝の製法』を見つけたかもしれません。しかし、大海は果てしなく、荒波が立っています。魚得水といえども、その道のりが順調だと誰が保証できるでしょうか?答え……答えは歴史の転換点に存在することもあります。でも、素晴らしい答えは往々にしてあなた自身の手の中にあるのです!さあ、私たちはやはり、振り返って、目の前のにぎやかな婚礼を見守ろうではありませんか。爆竹が弾け、煙が舞う様子を――」
  爆竹の煙が空高く立ちのぼり、一群の鶴が列をなして東の空に飛んで行く……

(十七)

  1200年あまり後、日本航空の専用機が首都空港に到着。颯爽としたいでたちの日本国首相田中角栄がしっかりとした足取りでタラップを降り、穏やかさの中に熱意を秘めた周恩来総理と握手する。
  北京の中南海。毛沢東主席は、書斎で日本の貴賓をもてなした際、田中首相に線装本(せんそうぼん)(糸で綴じて製本した書物)の『楚辞』を贈った。
  田中首相は両手で『楚辞』を受け取り、感激して頷き謝意を述べた。
  報道カメラマンが即座にシャッターを切り、盛んにたかれるフラッシュがあたり一面眩く光る……
  陝西省西安市郊外。
  楊貴妃の墓地が改修、一新されている。
  漢白玉の彫像の前で、国内外の観光客が足を止める。美しいガイドが彫像を指さして誇らしげに言う:「かつて孝謙天皇は、楊貴妃のことを、唐の国からやって来た平和の使者と賞賛されたのです!」
  東京の国会議事堂が盛んな拍手で沸き返る。日本を訪問した胡耀邦中国共産党中央総書記が演説の中で「……日本の青年3000人を友好代表団として中国にお招きします!」と述べた。
  日本の山口県。楊貴妃が日本へやって来たという伝説の地。楊貴妃の墓石と記念碑が立っている。長い歳月を経た文字は微かに読み取ることができ、読む者の涙を誘う。

(完)
2018年仲春  東京にて脱稿

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