4月10日は、永六輔さんの誕生日だった。ご存命であれば88歳で、米寿を迎えていたはずだ。
作詞家としての永さんは「黒い花びら」「こんにちは赤ちゃん」でレコード大賞を受賞、「上を向いて歩こう」「いい湯だな」は、現在も多くの人の愛唱歌となっている。
旅好きとしても知られ、日本各地の街を歩き、多くの人との出会いを、ラジオの電波にのせて喋った。放送が、その文字のように「送りっ放し」ではいけないという信念をもった方だった。1970年から現在まで続いているテレビ番組「遠くへ行きたい」がスタートした当時はレギュラー出演している。
多忙の身でありながら、多くの著書も残している。
じつは小生、かつては出版社に勤めており、書籍の企画・編集を仕事としていたが、その折、永さんの本をつくらせていただいたことがある。
当時は、永さんにかぎらず、著者への執筆依頼は手紙を書き、企画書を同封するような時代。電話やFAXで…という方法もあったが、永さんが「筆まめ」であることを聞いていたので、あえて郵便という手段を選んだ。
しかし「一発でOK」になるはずがなく、提案した企画を断られること数回。ところが何度か、手を変え、品を変え…で提案していると、永さんから「千葉県成田市で街歩きをしながら旅館の大広間で講演会をします。噺家さんを一人だけ連れていって、落語会もします。そのイベントを一冊の本にまとめてはどうだろう」というご提案をいただいた。
こちらは「ありがたい」のひと言で、1999年2月11日、朝から晩まで、永さんのあとにくっついて、取材・録音・録画。それをもとに編集したのが『お家繁盛 町繁盛』(KKベストセラーズ/2000年7月20日 初版発行)である。
当日は、成田の五軒の老舗旅館(梅屋旅館、大野屋旅館、近江屋旅館、駿河屋、若松本店)の大広間で講演会。お客様は、どの会に参加していただいてもよく、もちろんすべての会に参加していただくのもOKという趣向。雪のちらつく寒い日だったが、大盛況となった。
この日、それぞれの会場で落語を聞かせてくれたのが入船亭扇遊師匠。素晴らしい芸で会場を湧かせてくれた師匠は、いま古典落語の名人と呼ばれている。
ちなみに、会場の隅にちょこんとすわっている方がいて、気がつくと、すべての会場にいらっしゃる。どなたかと思ったら、驚いたことに、当時の成田市長だった小川国彦さん。永さんが何軒目かの会場で「今朝からずっと、会場の隅っこで、おとなしくしている人がいます。成田市長の小川さんです」と紹介したことで、そうと知った。
晩年はパーキンソン病との闘いとなった永さん。お亡くなりになったのは2016年7月7日、つまり七夕の日。そういえば「見上げてごらん夜の星を」も永さんの作詞だったなぁ。